東海道新幹線の京都駅からJR琵琶湖線を乗り継ぎ、南草津駅からバスで約30分。琵琶湖の南東、滋賀県が整備を進める「びわこ文化公園都市」の一角に、立命館大学びわこくさつキャンパス(BKC)はある。国際水準の「文理融合型キャンパス」を目指すこのキャンパスには主に理系の学部と経済学部の学生11000人余りが学ぶ。
同大学の情報理工学部は2019年4月、LinkedInの提供するオンライン学習サービス「LinkedIn Learning」を導入した。プログラミングを学ぶ情報理工学部の1回生のうち約70人が、「Python基礎講座」を利用した講義を受講している。
「反転学習」を実践
立命館大学情報理工学部がLinkedIn Learningを導入した目的は「反転学習」の実践にある。反転学習とは、新たな学習内容を事前に自宅で予習し、教室では学習内容を確認する課題を、教員と共に議論しながら解いていく。従来教育の中心だった「覚える」学習よりも、教員とのインタラクションを授業の中心に据えるアプローチだ。
「従来的な講義形式は学部全体で均質な講義を実現できる一方、学ぶ量が多く、授業中では十分に内容をカバーできない」。同大学の野間春生教授は言う。特にプログラミング言語は、語学教育と同じで学生によって得手不得手もあり、同じ教材を使った同じ速度の講義を実施することに限界を感じていたと言う。「学生一人ひとりのプログラミングに対する知識のばらつきをどう解消するかが課題になっていた」(野間教授)。
そこで、LinkedIn Learningを利用し、学生は授業に参加する前にPython基礎講座を受講(視聴?)する。授業では、冒頭でその理解度をまずミニテストで確認し、その後、演習問題を各自取り組む設計にした。演習問題で分からないところは、教員やTA(Teaching Assistant)、ES(Education Supporter)に聞きながら、じっくりと疑問を解消していく。基本的な学習内容を授業前に踏まえてもらうことで、授業中は学生の理解できていない部分に集中して解説できるようになった。
立命館大学がLinkedIn Learningを採用した理由は3つある。一つは映像で内容が日本語で理解できること。2つ目は、教材が5分程度の短い動画で構成されており、かつスマートフォンからも利用できるため、学生が手軽に勉強できること。3つ目が、立命館大学の教育管理システム(EMS)からアクセスできたこと。既存の情報システムから利用できるため、学生には閲覧しやすく、教員も学生の進捗状況を管理するのが容易だった。
「教科書よりも身近」
導入から1年が経ち、立命館大学の野間教授は手応えを感じている。学生が事前課題としてLinkedIn Learningで学習し、授業は疑問点を聞くという授業スタイルが定着し、その結果学生全体のプログラミング知識が底上げされたと言う。その結果、授業全体の進行も円滑に進められるようになり、課題だった学生の理解度のばらつきも、解消されたと言う。
さらに、学生の満足度も上がった。デジタルに慣れた学生には、紙の教科書で学ぶよりもオンライン学習の方が親和性が高いことが分かった。野間教授が学生にアンケートを取ったところ、7割がオンライン学習を支持したと言う。
折しも、新型コロナウイルスの感染により、多くの大学がオンライン学習の導入検討を余儀なくされている。今後は、対面授業とオンラインをいかに組み合わせ、学生に満足度の高い教育サービスを提供するかが、多くの大学にとって課題になるだろう。その中で、立命館大学が進める取り組みは、一つのロールモデルとなる可能性がある。
所在地: 滋賀県 |
業種: 高等教育 |
生徒数: 32,243名 |
「従来的な講義形式は学部全体で均質な講義を実現できる一方、学ぶ量が多 く、授業中では十分に内容をカバーできない。学生一人ひとりのプログラミング
に対する知識のばらつきをどう解消するかが課題になっていた。」
野間教授
立命館大学